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2013年12月25日
次世代を担う若手医師に伝えたい大学院の魅力
新潟大学大学院医歯学総合研究科消化器・一般外科学分野
教授 若井俊文
私は、医学部卒後3年目に大学院へ進学し、第一病理学教室渡邊英伸教授、味岡洋一教授からp53癌抑制遺伝子、肝癌・胆道癌・大腸癌の発育進展に関する研究を通じて、発見の喜びと国際的に認められる学術的研究の重要性を学んできた。素晴らしい師匠に恵まれ、厳しくも充実した研究生活を送らせて頂き、感謝の気持ちでいっぱいです。本稿では、自分の大学院時代の経験を回顧して、次世代を担う若手医師に大学院の魅力を伝えたい。
大学院博士課程に進学した動機は、腫瘍外科医としてR0(遺残腫瘍の無い)手術を確立するためには、癌の進展様式・分布および“微小転移巣”の実態を解明し、腫瘍学的見地から外科手術を再構築できると考えたことが、大学院に進学した動機であった。心身ともに健康的に研究生活を送るためには、curiosity(好奇心)、energy(気力、行動力)、ambition(大志)の3つの特性が必要である。これら3つの特性を若者は有している。臨床研修の修練中に臨床上の未解明な問題点に気づいた諸君は勇気を持って一歩前に踏み出すべきだ。どうしてか?年齢を重ねる毎に若者の3つの特性は確実に劣化していくからだ。
病理学を学んだ大学院研究期間中に、渡邊英伸教授の訓示の中で印象に残っている言葉、それは、「わしが教えるのではない。標本が教えてくれるばい。」そして「創造する喜びを!」である。先輩・師匠の行動(肉眼所見の観察法、診断記載)を模倣することから始まり、自らの経験を蓄積し、新しい概念を創造し、日本から世界に向けて情報発信することが、この訓示に込められた真の意味であると理解するようになった。形態学では、「心ここに在らざれば見れども見えず」と言われるように、熟練した病理医であれば一瞬にして指摘できる病変も経験のない研究者には説明されるまでは全く認識できないことがある。このことは、訓練を受け経験を蓄積してきた病理医の大きなアドバンテージであり、病理診断や形態学的研究でその優位性が発揮される。
大学院時代の経験は外科手術にも活かされている。腫瘍外科学において提唱されている最も重要な予後規定因子Residual tumor(遺残腫瘍)は、外科医が自ら判断し決定する切除ラインSurgical marginと密接な関係にある。優れた腫瘍外科医は術中に正確な癌の進展範囲を判断できる力を有している。このことは、訓練を受け病理形態学を習得した外科医の大きなアドバンテージであり、外科手術や腫瘍外科学に関する臨床研究でその優位性が発揮される。
臨床研究では「誰もが観ることを観て、誰もが考えないことを考える」ことが最も肝要である。得られた様々なデータを科学的に解析し解釈し、これまでとは異なる斬新な仮説を立て、それを証明することが優れた研究につながる。大学院は、研究志向を持った全ての医師に対して門戸が開かれており、研究者・博士として成功するために必要な知識基盤を形成することができる。若手医師には、研究を通じて物事の本質を見極める心術を身につけて欲しいと願っている。
大学院では、博士号を取得することは、大きな目標のひとつである。しかし、大学院修了後も医師として行う医療活動の視点に立つと博士号取得は通過点に過ぎない。我々は、臨床の現場、基礎研究で得られた知識を高尚なレベルで統合し、生命現象に対峙し、思考を重ねる努力を惜しまず、常に患者に寄り添い、生命を救うために全力を尽くす覚悟で診療を続けている。私は、このような高尚なレベルでの医学知識を有する医師を一人でも多く育成したいと常に考えている。研究志向を持った医師の周りには、患者、医療スタッフ、学生、研究者が自然に集まってくる。そして、裾野が広がることで、新たな人材が生まれてくると信じている。そのためにも生命現象を科学的に探究する研究期間は、医師にとって必須であると考えている。我々、新潟大学は、次世代を担う医療人の育成に真剣に取り組んでおり、若手研究者を大切に育てていきたいと考えている。気概ある諸君、輝かしい未来のために、今こそ勇気を持って一歩前に踏み出すべきだ。