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留学記

2016年11月29日

Roswell Park Cancer Institute 研修(2016/11/05-2016/11/13)

Roswell Park Cancer Institute 研修(2016/11/05-2016/11/13)

 

新潟大学大学院医歯学総合研究科

生体機能調節医学専攻 消化器・一般外科学分野

土田純子

 

この度、東北がんプロフェッショナル養成推進プランのご支援のもと、Roswell Park Cancer Institute (RPCI) の乳腺外科 (高部和明教授)、にて1週間の研修をさせていただいた。高部和明先生は新潟大学第一外科の先輩であり、アメリカで外科レジデンシー、腫瘍外科フェローシップを修められ、現在はRPCIの乳腺外科主任教授としてご活躍中である。私は、2年前にも東北がんプロフェッショナル養成推進プランのもと、高部先生の前任地であるバージニア州立大学に短期留学をさせて頂き、以後も共同研究を継続してきた。

今回の研修の目的は、乳腺外科臨床見学及び共同研究の推進を行うことであった。研修を通して学んだことをここに報告する。

 

Breast Multidisciplinary Conference (乳癌に関する集学的治療検討会)

乳癌に関する集学的治療検討会に参加した。乳腺外科医、腫瘍内科医、放射線科医、病理医が一同に会し、方針に悩んでいる症例の検討が行われていた。議論の中で、Clinical Trialの話が頻回に出てきたことから、方針決定に影響するのはClinical Trialに基づいたエビデンスであるのだと改めて感じた。

 

スフィンゴシン-1-リン酸の関する研究

高部先生の研究室のミーティングに参加し、乳癌患者の検体を用いた、スフィンゴシン-1-リン酸 (S1P) に関する研究成果をプレゼンテーションさせて頂いた。ミーティングの結果、S1Pの乳癌における役割を更に検討するため、癌ゲノムのデータベースであるThe Cancer Genome Atlas (TCGA) を用いた解析を追加することとなった。解析はBioinformaticistであるLi Yan先生に行っていただいた。今後も解析結果の考察を継続していきたい。

 

総説論文執筆

Precision Medicineに関する論文を執筆することとし、研修前にドラフトを作成し、研修に持参した。高部先生には筆者の伝えたい情報をよりクリアカットに伝える必要があることを教えて頂いた。また、RPCIのレジデントであるJami Rothman先生に、英文校正を中心に協力してもらうこととなり、打ち合わせを行った。打ち合わせの冒頭、”Precision medicineとは何か簡単に教えて”と尋ねられた時に、総説論文の目的はPrecision Medicineを知らない人にわかりやすく伝えることであることに今更ながら気付かされた。また、打ち合わせを通し、これも当然のことではあるが、本当の意味で内容を理解していなければ、相手に説明できないのだと痛感した。今一度、論文を見返し、筆者の主張が明解な論文を作っていきたい。研修前の準備および、研修中のご指導のおかげで、論文は仕上がってきているため、早期の完成を目指したい。

 

Stephen Edge先生と面談

AJCC Cancer Staging Manual の編集をされている腫瘍外科Stephen Edge先生を訪問した。Edge先生との会話の中で、私の専門分野を尋ねられた時に、大御所の先生を前にした緊張と英語力への不安から、上手く返答することができなかった。後に高部先生とのお話の中で、アメリカのレジデントならば自分のレベルでの業績を堂々と述べているはずと伺った。英語力もさることながら、今回の経験を活かし、次に同様な状況になった時に返答できるよう準備をしておきたいと感じた。知識の習得と経験の蓄積を重ね、一流の先生とのディスカッションができるレベルを目指して、研鑽していきたいと思う。Edge先生は面談の中で最近改訂されたAJCC Cancer Staging Manualにおける改定のポイントを解説してくださった。また、Edge先生は出版されたばかりのAJCC 8th editionを自らコピーし、私たちに手渡してくださり、大変嬉しく思った。AJCC 8th editionは日本ではまだ手に入らないので早速勉強したいと思う。

面談の中で、永橋先生がEdge先生にGeneral Surgeonを目指すべきか、Specialistを目指すべきか尋ねたところ、Edge先生は全てを網羅することは無理だからSpecialist目指すべきと仰っていた。後に高部先生に教えて頂いたことだが、Edge先生はGeneral Surgeryを長年行い、最終的に乳腺外科を専門にされたとのことであった。永橋先生のレベルだからこそ、Specialistを目指すべきというアドバイスであったのであり、レジデントである私が尋ねたら、General surgeryをまずは勉強すべきと答えられていた可能性はある。日本とアメリカで乳腺外科の仕事内容は異なるので、一概には言えないが、可能な限り広い知識を習得するよう努力しつつ、今後のキャリア形成をよく考えていきたいと思う。

 

外来見学

高部先生の外来を陪席させて頂いた。アメリカの外来では、医師の診断の前に、Nurse practitionerが、病歴聴取、検査オーダーを行い、結果が出そろった段階で、医師に報告する。日本における、予診医の役割を、アメリカではNurse practitionerが行っていた。治療の概要についても標準的な説明はNurse practitionerが行うことができるため、医師の診察は非常にシンプルなものとなり、医師でなければできない仕事に集中することができる。また、医師控室に設置された電光掲示板では、患者の動きをリアルタイムに把握でき、極力患者を待たせないような工夫がされている。

外来に併設されたPatient Navigatorは患者用のインフォメーションセンターである。American Cancer SocietyやRPCIが独自に作成した、乳癌の診断・治療、患者会などに関する様々なパンフレットを自由に見ることができ、ウイッグを試着できるスペースもある。患者からの疑問点には専任のスタッフが丁寧に対応し、患者は外来で聞けなかった疑問点じっくり時間をかけて、解決することができる。また、Patient Navigatorでは寄付により制作された様々なグッズを、無料で配布している。

日本では全ての診療過程を医師が担うことが多く、その結果、医師は疲弊し、患者に長い待ち時間が発生しているのが現状である。アメリカのシステムは非常に効率的であり、かつホスピタリティの面でも非常に優れている。効率性とホスピタリティは相反するもののようだが、実は表裏一体で、患者を待たせないことは最高のホスピタリティだと感じた。

 

Surgical Ground Round

当科永橋昌幸先生によるPrecision medicineに関する講演が開催された。当科における癌関連遺伝子パネル検査に関する研究成果を中心にご講演され、RPCIの先生方から大変好評であった。

 

手術見学

アメリカの手術室では、回転効率が重視され、手術時間が予定よりもどれだけ超過したかを電光掲示板で確認できる。麻酔もNurse anesthetistが挿管をはじめ、ほとんどの手技を担っていた。乳房切除術、センチネルリンパ節生検を見学させて頂いた。今回見学した患者は乳癌の手術後に乳房再建手術も予定されていたため、術後は入院となったが、乳癌の手術のみならば、当日帰宅することが可能なため、効率はとても良い。手術の大まかな点は日本との違いはなかったが、皮膚切開線のデザインの仕方や温存手術におけるマージンなど、いままで当然だと思っていたこともエビデンスの観点に基づくと、再考の余地があることを実感した。高部先生はフェローと手術をされていたが、術中は明るく和やかな雰囲気であった。また、乳癌術後のSeromaの対応として、感染を防ぐために穿刺排液は行わず、圧迫を長期的に行っていることなどを知った。日本でも応用していきたい。

 

Center for Personalized Medicineの訪問

Center for Personalized Medicine TeamのCarl Morrison教授を訪問し、癌関連遺伝子検査の共同研究に関する打ち合わせおよび部門の見学に同行させて頂いた。Center for Personalized Medicineは次世代型シークエンサーのIlluminaを備え、Whole Exome Sequenceを行うことができ、Liquid biopsyにも対応可能である。今後研究が更に推進することが期待された。

 

RPCI総長との面会

大学間協定に関する打ち合わせのために、高部先生、永橋先生がRPCI総長であるCandace S. Johnson先生と面会をされたため、私も同席させていただいた。高部先生、永橋先生は、15分という限られた時間の中で、相手に受け入れてもらえるような伝え方を予め入念に準備をされており、交渉は順調に進行した。今回のように組織のトップと面会し、交渉する様子を見学することは初めてであり、貴重な経験となった。

 

まとめ

前回のバージニア州立大学留学では、医学研究の重要性を実感できたことが最大の学びであったが、今回の研修では一流の先生方との面談や、レジデントとのディスカッションを通し、自分自身に足りないところ、努力しなければいけないことを明確にできたと思う。私が今後習得しなければいけないスキルは、知りえた知識や自分自身のことを、相手に言葉で伝えることだと強く感じた。今後同様の状況に遭遇した時に、自信を持って答えられるように、日頃から知識や考えを整理しておきたい。こういったことは実際に経験しなければ、気が付くこともできなかったので、低学年のうちから貴重な経験をすることができたことを大変幸せに思う。

最後にこのような貴重な機会を下さいました東北がんプロフェッショナル養成推進プラン、新潟大学腫瘍内科学分野 西條康夫教授、消化器・一般外科学分野 若井俊文教授、研修中にご指導賜りましたRoswell Park Cancer Institute 乳腺外科 高部和明教授、新潟大学消化器・一般外科学分野 永橋昌幸先生に深く御礼申し上げます。

髙部先生の研究室の方々と
手術室見学
論文制作に協力してくれたJami Rothman先生(左)と私(右)