ぶどう農家 川上好美と川上美行のとある一日

「お前ぇの黄華に注文がきたみたいだぞ」

親父がパソコンの前で不慣れなマウスを動かしている。ネットでぶどうの販売を始めてからというもの、メールチェックが日課になったみたいだ。

「やっぱり黄華は人気だな。まぁ、酸味が少ない味だから、ハマるのは分かるけどよ」
「だろ? それに隣のキヨミさんが孫に黄華を食べさせたら笑ったって、喜んでいたよ」

皮ごと食べられる黄華は、小さい子供にもちょうどいいのかもしれない。一緒に出した巨峰より先に黄華が無くなったという話は親父には内緒だ。

「親父の巨峰には負けないからな」
「そうか? ほら、今度は俺の巨峰に、昨年も頼んでくれた龍之介さんから注文だ」
(なんだって!?)

僕と親父は「川上好美の黄華」と「川上美行の巨峰」どっちが好評か、ぶどう対決をしている。
今日は親父の巨峰が一歩リードだ。

「これからぶどうを採ってくるすけ、お前ぇは箱を用意しておけ」

麦わら帽をかぶった親父を見送り、僕は箱を取りに行く。

親父の巨峰は「美行さんの巨峰」と呼ばれ、地元で有名だ。

ぶどうなんてどれも一緒だと思われがちだけれど、親父の巨峰は大粒で弾力がある。値段は少し高いけれど、お客さん曰く「一度食べたら忘れられない味」らしい。だから買ってくれるのはリピーターさんばかりだ。がははと笑う、親父の人柄も理由の一つなのかもしれない。

だけど、僕の黄華だって毎年同じ時期に買ってくれるお客さんがいる。
作れる数が少ないから店に並べられる程の量はないけれど、こっそりファンを増やしていくつもりだ。

ぶどうの房をカゴに入れて戻ってきた親父が、自慢げに腰に手を当てる。

「ほら見ろ、ぷりっぷりだ。やっぱり俺の巨峰は、お前ぇのぶどうには負けねぇ」
「僕の黄華だってブルームがいっぱいだ。親父の巨峰には負けない」

ブルームというのは、ぶどうの表面についている白い粉で、これが多いほど糖度が高くて美味しい。

結局、互いのぶどう自慢は勝敗がつかないままだ。

「鮮度が落ちねぇうちに、はやくお客さんに送ってやれよ」

「もちろん」

朝採ったぶどうをその日に送るのが、親父と僕のモットーだ。今日も愛情をつめ込んだ黄華と巨峰を箱詰めする。
字はあまり上手くないけれど、「ありがとう」の気持ちを込めた手紙も添えて。
僕たちのぶどうを食べた人が自然と笑ってくれたら、うれしい。

よさく農園

商号 よさく農園
住所 〒950-1332 新潟県新潟市西蒲区長場218
電話 025-375-4363
FAX 025-375-4363
E-mail yosaku-noujo@aa.wakwak.com
敷地面積 12,000平方メートル
代表者 川上好美

川上好美(息子)

誕生日
1983年8月31日
趣味
テニス・映画

よさく農園の長男としてうまれ、ブドウを食べてスクスク育つ。農業大学校卒業後、黄華の本場、長野県松本市でブドウの栽培方法を学び、現在よさく農園の6代目として日々奮闘中。

川上とも子(母)

誕生日
1959年9月27日
趣味
家庭菜園

美行との結婚を機にぶどう栽培の道に入り、夫を支え続けてきた。
近所の人にブドウと一緒に野菜を配り、ブドウに負けじと野菜も好評。

川上美行(親父)

誕生日
1954年6月5日
趣味
ぶどう、ブドウ、葡萄

先代「与作」から栽培方法を引き継ぎ、改良を加えながら、コクのあるぶどう作りに打ち込む。現在は息子と切磋琢磨しながら仕事に励んでいる。